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相続は、被相続人が死亡した時に開始することになっています。親族が時点を異にして死亡した場合、相続人の範囲やその順位を確定することは容易です。
しかし、複数名が同一事故で死亡したものの、その死亡時期の前後が不明であるような場合、相続人の範囲やその順位の確定について問題が生じます。

民法は「同時死亡の推定」という規定を設けています。
複数の人間が死んだとき、死亡時刻の前後が不明だと、同時に死亡したとみなすのです。

飛行機事故や船の沈没なんかが典型例で、その人たちの間には相互に遺産の相続が生じなくなります。

通常は、死んだ順序が遺産の行き先を決めます。

しかし、飛行機や列車の事故で大量の人の旅客が死亡した場合、その死亡時間などは一人一人正確にはわかりません。
この不明は、各人の遺産相続に重大な影響をもたらしてきます。

そのため、法律は、昭和37年、民法を改正して新しく第五節を設け、「同時死亡の推定」という条文を置きました。
法律が新しい節まで設けて条文を一か条追加したくらいですから、この条文は大変重大な意味をもつはずでした。

この条文がどのように遺産相続に重大な役割を演ずるかを例で解説します。

父親と、息子が二人で同じ飛行機に乗り、旅に出ました。
しかし、その飛行機が墜落して二人とも死亡しました。

そこで、父親の莫大な遺産の相続が問題となりました。

父親がまず死亡し、少し遅れて息子が死亡した場合、すでに母親が死亡している設定だと、父親の遺産は、まず息子がすべて相続し、その息子が死亡したことにより、その遺産は父親が再婚した後妻に相続されます。

次に、息子が先に死亡し、少し遅れて父親が死亡した場合、父親の遺産は父親の兄弟に相続されます。
したがって、後妻は遺産にありつけません。

最後に、二人の死亡時期がわからない場合です。
飛行機の墜落事故の場合などは、ほとんどがこのケースでしょう。

この場合は「同時死亡の推定」により、父親と息子は同時に死亡したものとされ、両者間に遺産相続は発生しません。
結果は、他の相続人に対する関係では、息子が先に死亡した場合と同様となります。


こういう具合ですから、父親の兄弟と後妻にとって、息子の死亡時期は重大な事となります。
それによって、父親の遺産が手に入るか入らないかが決まってしまうからです。

そうなると、父親の兄弟姉妹たちには、その息子が父親より先に死んでしまうか、死亡時期が不明であることを願いたいところでしょうし、後妻にとっては、息子の死期が一分一秒でも父親より遅れていたことを祈りたいところでしょう。

もちろん、同時死亡は推定されるものなのですから、この条文で同時死亡が確定されるわけではありません。
推定によって不利を受ける者などは、反対の事実を主張、立証して、推定を覆すことが可能です。
実際には死亡時期に差があった証拠を、何とかして見つけだせばよいのです。

参考条文

第5節 同時死亡の推定
民法32条の2
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

民法887条(子・代襲相続)
1 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、 又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、 その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。 但し、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、 又は第891条の規定に該当し、 若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合に準用する。