ミドリムシの画像

ミドリムシと同じような目的で半世紀以上前に開発されたものにクロレラがあります。

日本の徳川生物学研究所が1951年に世界で初めて大量培養に成功すると、1960年代以降、多くのクロレラ食品が発売されてきました。

クロレラも葉緑体をもつ単細胞の藻類ですが、生物分類上は植物の一種とされます。
このため、DHAやEPAといった動物性の栄養素はもっていません。
それでもタンパク質を約45パーセント、脂質を約20パーセント、糖質を約20パーセントと三大栄養素をバランスよく備えているところが評価され、早くに商品化が進みました。

このごろはクロレラ食品といえば、ビタミン類やミネラル類を多く含む点が強調され、青汁などと同様の健康食品として扱われることが多いですが、もともとはタンパク質の供給源として期待されていました。

開発されたのは日本人がまだ栄養不足に悩んでいた時代で、各家庭の食卓に充分な量の肉や魚が並ばなかったことから、農作物や畜肉より効率的にタンパク質をつくりだせる藻類に関心が集まり、最初に培養が可能になったのがクロレラだったのです。

早くに健康に良い食品といったイメージづくりに成功したせいか、今でもクロレラは世界で消費され、一定の市場規模を維持しています。

そして今、ミドリムシが注目されるのは、そんなクロレラより、さらにすぐれた点をもっているからです。

クロレラとミドリムシの栄養成分を比較すると、もっとも特徴的なのが、タンパク質を構成するアミノ酸の種類です。
クロレラがトリプトファンやリジンを多く含みながら含硫アミノ酸が不足しているのに対し、ミドリムシは人体に必要な必須アミノ酸9種類のすべてをバランスよくもっています。

もうひとつスピルリナというものがあり、アフリカや中南米などの熱帯の湖に自生する藻類で、真核生物ではなくバクテリアの一種です。
クロレラと同様にタンパク質が豊富であることから健康食品に使われています。
アミノ酸の構成もクロレラとよく似ています。

これら3種類の藻類を食品中のタンパク質の品質評価基準であるアミノ酸スコアで表すと、理想値100に対してミドリムシが83、クロレラが54、スピルリナが51と、ミドリムシが群を抜いてすぐれていることがわかります。
ちなみに一般的な食品のアミノ酸スコアでは、100に達するのは牛肉、豚肉、鶏卵、カツオなどで、その他にミドリムシを上回るのはチーズや貝類くらいしかありません。


もうひとつ、ミドリムシには動物的だからこその大きなメリットがあります。
生物の細胞は細胞膜によって外界と隔てられているのですが、植物の細胞はさらに外側に細胞壁というカバーをもっています。
この細胞壁は植物繊維の代表であるセルロースや木材の主成分であるリグニンのような頑丈な物質からできており、細胞を防御するだけでなく細胞間の連絡などの役目を果たしているそうです。

ちなみに、動物細胞の場合は内部に細胞骨格という細胞の形態を維持する構造があるため、細胞壁はありません。

おそらく、運動をするには細胞壁をもたない軽い細胞のほうが有利だったことから、そういうかたちに進化してきたのでしょうが、もちろん防御力で比べるな植物細胞のほうが圧倒的に強いでしょう。
ところが、その頑丈さが食料とするには文字通り障壁となります。
細胞内部の栄養素を取り出すには細胞壁を破らなければならないのですが、残念なことに、多くの動物はセルロースを分解できるセルラーゼという酵素をもっていないからです。
このため、植物を食べたときには必死に噛んで細胞を物理的に破壊するか、あるいはセルラーゼを産出する生物を体内に共生させる方法を選ぶしかありません。

当然、人間もセルラーゼをもっていません。
そのうえ、牛などのように強力な歯も胃もないので、できるだけ細胞壁の弱そうな植物を選んで食べるか、加熱して細胞壁を破壊することでなんとか食料にしてきました。
それでも口にした野菜のかなりの部分は消化できずに排出されてしまうので、肉や魚に比べるとあまり効率的な食料とはいえません。

植物であるクロレラは細胞壁をもつので、加熱や切断処理をしても栄養分の消化吸収率は40~60パーセントに留まるといいます。
これに対して動物的なミドリムシには細胞壁がなく、この数字は93.1パーセントにまで高まります。
つまりもっている栄養素を、ほとんど無駄なく利用できるわけで、このような特性をもつ藻類は、今のところミドリムシだけです。